「あ・・・あかいけく」
「なんか、勘違いしてないか」

あの赤池章三の膝の上、というとんでもない事態を一瞬後に認識し、今度は頭が真っ白になる。
章三が果たして公共の場で膝の上に誰かを乗せるなんてことを、いったい誰が想像し得ただろうか?

驚きつつもしかし、理性を総動員して逃れるにはそこはあまりにも居心地が良かった。
しかもがっちりと腕で細身の胴体をホールドされていることから、意外に力強いその腕から逃れる気が一気に削がれる。
その代わりに、さっきまで詰まりそうだった胸の音はどんどん早く、大きくなり、頬が真っ赤に染まっていくのを、自覚した。

「か、勘違いって、なに」
「お前がいつものごとく、いらん妄想膨らませてないか、ってことだよ」
「なっ、いらん妄想って」

章三の言葉は頭に入ってきてかろうじて受け答えをしているが、頭の中は「章三の膝の上」一色だった。
身の置き所がないように感じるのに、ずっとこの膝の上に座っていたい、だけど心臓がどきどきしすぎてこのままだと息が止まってしまいそうな気がする。

「勝手に僕がお前のことそんなに好きじゃないんじゃないか、とか、甘えすぎたら引かれそうとか、重いって思われたらどうしようとか、・・・お前より僕の気持ちの方が軽いんじゃないかとか!そういうことだよ」
「!」

全て言い当てられて、頭に上っていた血が今度は下がり始めた。
たしかにその通りだ。
章三とキスをして、好きだと言ってもらえて、抱きしめられて、体を重ねて、舞い上がっていた。
そして舞い上がっていた分、心のどこかで、ブレーキをかけていた自分が居たのも確かだ。今、言われた言葉の通りに。

「あのなあ。そんなの全っっ部、僕が考えてることなんだからな!」
「え、赤池君が?」

こんなに自分は章三のことが好きなのに、なんでこの人はそんなことを考えるのか。

「ぼ、僕は・・・赤池君のこと、好きで・・・本当に好きで、一緒にいたくて」
「そんなの僕だって一緒だっての」

章三の声はあくまで優しい。

「いつかお前に捨てられるんじゃないかって、不安に思ってる自分に驚きだけど、でもお前のこと本気だからきっとそう思うんだよな」

後ろから抱きしめられているから、言い聞かせるというよりは独り言のようにつぶやく章三の表情は見えない。

「不安になるなよ。なあ、”託生”。僕は絶対にお前から離れたりしない。たとえば明日お前が僕に飽きたのだとしても、僕はお前のことを好きで居続けるよ・・・約束する・・・ああ、我ながら陳腐なせりふだな」

なぜそんなドラマのようなせりふを章三が吐くのか、理由は分かりすぎるほど分かっている。
託生は前に回された腕に、自分の両手を重ねた。
過去の傷が完全に癒えたわけではないけれど、それがまだギイへの恋を持て余していることが理由ではないことを、きっと今言葉で伝えても、この人にはうまく伝えられない。今の自分では。
もっとしっかり自立して、章三が頼もしく思ってくれるぐらい、章三を守れるようになったら、きっと。
だから、今はその腕をきゅっと握った。
不安になっているのは自分ではない。むしろ章三の方なのだ。それが、やっと分かった。

「ありがとう”章三”。好きだよ、ほんとに、・・大好き」

飽きるなんてありえない。明日だって、100年先だって。
どうしてこんなに優しい人が自分を好きになってくれたのか。
好きだという気持ちがあふれて叫びそうになる。
自分の不安なんかどうでもいい、章三の不安を消したい。初めて、そんな風に思った。

「・・・今日、部屋、いいか?」
「うん。僕も今それ言おうと思ってた」

同じことを考えているのが分かって、二人して、顔を合わせないまま笑った。
章三がいったい今どんな表情をしているのか。
一途に自分を思ってくれる恋人を背中に感じて、その腕の中、託生は幸せだった。





「・・・」

オブジェに身を潜めていた幸子は、いつの間にか自分が涙を滲ませていたことに気がついた。
二人の間に過去何があったのかは分からない。
だけど今、そこには互いを思いやる優しい恋人達の姿しかない(はずだ。これは断じて腐のフィルターせいなどではないだろう)。

興味本位のゴシップ魂で後をつけた自分を、幸子は自分で褒めた。
もしそのゲスとさえも言える根性がなければ、この感動的な場面に立ち会えなかったに違いない。二人にはもちろん気づかれてはならないのでうっかり拍手できないのが残念ではあるが。

しかし、こうも純愛ぶりを見せつけられてしまうと、ヴィヴランテメンバーに事実を吹聴して回るのも忍びない。
どうしたものか・・・。

物陰で腕を組み、のんきに考え込む。もはや幸子の頭の中はカップリング妄想に支配され、よもや二人に見つかるかも、という思考は彼方に飛んでいた。

よし、今日のこれは自分の胸に納めて、ヴィヴランテメンバーには小説という形で発表しよう!!



後日、驚異のいちゃつきぶりを発揮する赤池君x葉山君の小説(幸子作)がメンバー内で発表され、大いに盛り上がったことは言うまでもないが、あくまでそれを”フィクション”としたのは、純愛ぶりを繰り広げる二人の秘密をパパラッチ並に暴露することが良心に反したからだ。


というわけで、幸子のスパイ活動は自己完結し、メンバー達は相変わらず様々なカップリングで楽しむのであった。



真実が、親友の菜緒のみにひっそりと語られるのはもっと先の話である。






続きものなのに大変お待たせしましたm(_ _)m
幸子は複数のギイタク&章タクファンに目撃されていることを知らないままですね(笑)
まさかの島岡さんもいらっしゃったようですし(^_^;)
この章三と託生は、幸せになってくれると思います。
でもギイもあきらめてないんだろうな。虎視眈々と巻き返しをねらっているんだろうな。
ギイのご出演が無く、すみませんでした。回想シーンだけに登場するという...
本編(?)の境界の浸食の方では登場予定です、もう少し先ではありますが。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。


前篇への拍手ありがとうございました。
また、しのさま、ラッキーさま、ちーさま、三平さま、rinさま、コメントありがとうございました。
きっとさっちゃんの後ろには、島岡さんと、その後ろには皆様が付いているはずなのですが、さっちゃんは天然なのできっと全く気付いておりません。
さらに天然なたくみ君は当然気づかす・・・もしや章三は勘づいている!?かもしれませんね、攻だから!(←?)


非公開メッセージもありがとうございます!
(6/19 23:29 イニシャル”K”の方)
色白美肌←( *´艸`)これ、たまりませんね!!!
毛穴とか見えないと思います。
服の中で体が泳いでそうだし(><)
高校生の頃は体格は章三とあまり変わらなかったようですが、章三は大学入ってから急激に成長するはずですので!!(少なくともこのお話では)きっと気並んだら華奢さが目立って良い感じなはず~!
部屋に帰ったら、章三はケモノ?ケダモノ?