※一応R18とさせてください。(ぬるいですが、念のため)









「タクミ」


教授が僕の頤を左手で摘んで、キスを落とした。


ジン・・・と体の芯が痛いほどしびれる。

たまらず口を開けたら、なめらかな舌が入り込んできた。


「あ・・・あ・・・」


口づけられながら僕は、抵抗しようとは全く思っていない自分に気が付いた。


「あ、教授・・・」

「ライナルトと呼びなさい」

「ん、あ・・・」

「君のすばらしいところは私が一番よく分かっている」

「ライナ・・・ルト」

「君に必要なのは、既に死に絶えた昔の感情の残り火ではない。新しい恋だよ」


時折唇を離しながら、教授は僕に言い聞かせるように、ささやいた。


「君が欲しい・・・一目見たときに、君を愛してからずっと、ずっとこうしたかった」


ライナルトは僕を再びソファに寝かせて、そしてキスを続けた。
手が、体をまさぐってくる。
温かくて大きな手に体中を触れられて、どうにかなってしまいそう。 


「愛・・・?」

「そうだよ、タクミ。私は、君をずっと愛している」


いつもの自信に満ちあふれた声とは違う、切ない響きに、胸が締め付けられた。

ライナルトは、僕を愛してくれていた?

あの日、コンクール会場で出会ったときから・・・?


「信じないかもしれないが、一目惚れだったんだ」





ボタンが性急にはずされていくのを感じた。
彼が欲情しているという事実に、彼から欲しがられていると、求められているという事実に、背筋から快感が這い上がってくるのが分かった。

胸があらわになる。
かすかに体が震えた。それは、”期待”、だったかもしれない。
その震えに気がついたのか、不意にその指先の動きが止まった。


「すまない。今日、こんな風にするつもりはなかったのに、君の許可なしに君に触れるつもりは無かったのに、君を見ていたら・・・っ・・・許してくれ」


ライナルトが僕の胸に唇を落とし、抱きしめた。
腰に、堅い感触があった。

ライナルトが、僕に欲を覚えている。

こんなに欲情しているのに、僕を気遣う彼が愛おしかった。
僕は、この人が、ライナルトが好きなんだ。
この人と、もう一度恋を始めたいと思っている。
僕の心も、体も。


頑なに手を動かそうとしないライナルトの頭にそっと手を回して、今は解かれて背中を流れているそのきらきら光る長い髪をすいた。

僕、もう一度恋をしていいだろうか。
僕だって、もう、抑えきれない。
こんなに優しくて、こんなに美しい人。

あなたの求愛に、応えたい。 


「嫌なら、押しのけてくれないか。今なら、まだ間に合う。まだ私は、君を傷つけないで済む」
「いいえ・・・僕を、抱いてくれますか?」


緊張で、声が掠れた。
ぴくりとその腕が反応する。
顔が上げられ、人形のように整った美貌が間近に迫った。


「・・・いいのか?もう止まらないぞ?」
「僕も・・・あなたを・・」
「タクミ、本当に?」 


強く、強く抱きしめられた。
まだ、自覚したばかりで、はっきりとは言えなかったのが申し訳なかったけれど、この胸の高鳴り、見つめられることを歓喜する僕の心・・・

僕はずっと気が付いていなかったんだ。

あなたに恋しているって。

昔に囚われすぎて、あなたへの気持ちを自覚するのが随分遅くなってしまった。


「ごめんなさい、もっと早く気が付けば良かった」
「いいさ。君が私を愛してくれるのなら、それでいい」


抱くよ。


ライナルトはささやいて、中断していた愛撫を再開した。





自分の、かすかに乱れた息遣いが聞こえる。


「あ・・・あぁっ・・・まって、もう少し」


どうしよう、からだの奥から溶かされていくみたいに・・・気持ちいい。
誰かに抱きしめられるって、抱かれるって、こんな風に何もかも溶けてなくなってしまう様な感覚だっただろうか。


「タクミ・・・綺麗だ。君は、どこもかしこも、真珠のように美しくひそやかだ」


彼は、僕の首元の上に唇を滑らせながら、その大きくて、でも繊細な白い指先で僕の肌をくまなくまさぐっていく。
今は解かれている艶やかな長めの髪が、頬に触れた。
ギイの手とは違う、感触、触れ方・・・あまりにも違いすぎて、逆にその記憶を掘り起こされる。
こんな時なのに。


「ん」


だけど、すぐにその感傷は霧散した。
彼の、激しい口づけによって。


「こちらを見なさい。君を抱く男をよく見て」


ほんの少し彼も息を切らせながら、口づけを離して僕をまっすぐ見据えた。
嫉妬の光を隠すことなくその瞳に宿す。
そして・・・その瞳に、頬を紅潮させたひどくみだらな顔をした僕が映っている。


「君を抱いているのは、私だ。他を見ることは許さない」

「ん」


最奥に彼を感じた。


「あ・・・」


ライナルト自身が、ゆっくりと入ってくる。

一度見てしまった目は、逸らせない。

互いに見つめ合ったまま、ゆっくりとつながっていく。


「あっ・・・ライナルト・・・ああっ」


あまりにゆっくりで、焦らされているような気になる。

思わずその広い背中にすがりついた。

しっかりとした筋肉の感触が、手のひらを通して伝わってくる。


「っ」


油断していると、一気に突き上げられた。

どうも、負担をかけないように加減をしてくれていたらしいが、ライナルトの方も我慢がきかなくなったらしい。

普段の貴公子然とした雰囲気からは想像もつかない荒々しさで、攻められる。

あまりの快感に涙をこぼすと、ぎゅっと抱きしめられて唇で吸い取られた。

それだけで安心してしまう。


「タクミ、・・・つらいか?」

「いえ、あの・・・」


快感の度が過ぎてつらいのだとは言い出せずに、真っ赤になって黙り込むと、愛おしそうに口づけられる。
中で、彼が大きくなった気がした。 


「あ」


微妙に体勢を変えられ、片足を抱えられた。

より結合が深くなる。


「だめ、だめ・・・ライナルト、ほんとうにもう!」

「タクミ、いっしょに」





眠りに落ちる前、また抱き合って、翌朝はベッドの上でライナルトのバイオリンで目が覚めた。

なんという贅沢だろう。
彼は、眠りに落ちるまで僕を離さず、朝目が覚めるとたくましい腕の中に居て、美しい銀眼が僕を優しく見つめていた。
朝から、また濃厚な、キス。
昨日まで教授と生徒だったことを思い出して、僕はまだ慣れずに真っ赤になってしまったのだけれど。
個人レッスンの時、僕、平静でいられるかなぁ。
 

身も心もライナルトに抱き留められ、ただ、幸せだった。

2年半の間張りつめていた精神が蜂蜜のように溶かされて、ようやく僕は安らぎを得たのだった。






-----------------------------------------------
後半の一部は、日記を読んでいて下さった方には覚えのある文章だと思います。 
今回は、ライナルトと託生が愛を確かめ合うところでした。
託生君の方は、まだ自覚したばかりで初々しいのですが、ライナルトはもう半年ぐらい前から
ムラムラ(笑)していたと思うので、ようやく想いが叶って人生絶頂期とばかりに嬉しいと思います。
紳士なので、我慢に我慢を重ねて託生君の信頼を勝ち取りました。
良かったなぁ、ライナルト・・・。
さて次は・・・少し展開があると思います。
余談ですが、この託生くんはジュリアードではなく、カーティスに留学していますが、
一応向こうのブログの「異国にて」の託生くんとは別軸ということで、そうしています。
でも、どこかの公演で、アルセニオとか貴夫と共演してたら面白いなぁとは思ってます。


4/17の記事「BLで避けてる~」に拍手コメント下さった方、ありがとうございました。
ご賛同いただけて嬉しいです!
5/20の記事につきまして、拍手ありがとうございました。
satominさま、しのさま、ちーさま、コメントありがとうございました。