Beach 4.の続きです。間空きまして、すみません。






章三の、「恋人だ」発言を受け、目の前のギイは、一瞬固まる。
そして、託生を見た。

真偽を問うように、切ない目で、嘘だと言ってくれと、まるで訴えかけるように。
その瞳に元々嘘をついている良心が痛むが、そもそも彼には助けてもらっただけの縁なのだ。
ここで情を持ってしまっても仕方がないし、そもそもこんな普通ではない状態で誰かに素性を知られるのもあまり得策ではないように思えた。

「まあ、そんなもん、かな」

それでも章三と恋人だというのはやはり本当のことではないので、まっすぐにギイの目を見ることはできずに、視線を逸らしつつ答えた。

「葉山、帰るぞ」
「あ、うん。じゃあ、助けてくれてありがとう」
「また、会える?」

章三の牽制にそれ以上は難しいと判断したのだろう。
引き留められこそしなかったものの、すがるような目で、返答に困る質問を投げられる。
正直言って、個人的にはどことなく惹かれてはいるが、状況的にはつながりは持たない方が良さそうだ。

「・・・機会があれば」

結局ぼやかした答えを返して、それ以上は振り返ることなく腕をひっぱる章三に引きずられながらホテルへの道を急ぐ。

「あ、赤池君・・・手、もう大丈夫だから」

むりやり五本の指すべてを絡め合わせる、いわゆる恋人つなぎ、を実行されてとまどう。
普段どちらかと言えば、色恋沙汰には程遠い章三がそんな行動をとるのが、不思議に思えた。

「ばか。あいつが見てたら不自然だろ。恋人らしくしとかないと」
「そ、そうかな」
「ほら、行くぞ」
「う、うん」

章三と手をつないで、何となく変な風に胸の高まりを覚えながらも、ギイに想いを馳せた。
男性の姿のまま会っていたら、良い友人になっていたかも知れない。
なぜ男の姿じゃなかったのだろう。
本当は、もっと話をしてみたかったと考えつつ。
 
ギイは視線で二人の姿をずっと追っていたが、それには章三も託生も気がつかなかった。





「お前を置いていった僕も悪かったけど、お前自身もちょっと周囲に気をつけてくれ。あんなことあったんじゃ、気が気でない」

ホテルに帰る道すがら、章三は経緯を知って怒りを抑えられないらしい。
部屋に戻るなりベッドに座らされて、目の前に仁王立ちした章三に説教される。

「何言ってんの。僕女の子じゃないし、平気だから。ちょっと油断しただけだから。心配しないでよ」
「・・・片倉が一緒であれば、僕もここまで心配しないんだが」
「本当に大丈夫だよ・・・」

章三がいつもと様子が違うので、調子が狂う。
ずっと見つめられたままいたたまれなくって、身の置き所がなくなってきた。
もじ、と目線をそらして、小さく呟く。

「あの、お風呂・・・入ってくるね」

両手を握りながら言うと、章三ははっとした。
今日の出来事は女性の体を持つ託生からすれば、想像以上に不愉快極まりないことだと思い至ったようだ。
 
「あ、ああ、そうだな。触られて、気持ち悪かっただろ。しっかり洗ってこいよ」
「あ、うん」

おそらくこちらに気を使って言ってくれたであろう一言が、余計になぜか二人の間に距離感を生む。
それが何なのか分からないまま、室内に併設された広いバスルームに入った。

「あ・・・しまった」

脱ぐ段になって、彼にパーカーを返しそびれたことに今更ながらに気がついた。
なんとか返さなければいけない。

「・・・とりあえず洗って・・・明日探すか」

もうこれきりだと思っていたのに、結局自分から彼を探さなければいけなくなったのは皮肉なものだ。

確かに、あの黒ブーメランに触られたところが何となく気持ちが悪かったので、いつもより多めにボディソープを使う。
リゾートらしい、プルメリアのかすかな甘い香りが心を落ち着けてくれた。

バスローブを羽織って、扉を開けると、章三はリビングルームの方で、ソファに寝そべって目をつぶっていた。
こんなに無防備な章三を見ることもあまりないかもしれない。
なんとなく、その整った顔を間近で眺めてみたくなって、頭の方にしゃがみ込み、のぞき込む。

心なしか、顔色が青い気がする。心配をかけてしまったからだろうか?

見つめていたのは、ほんの数秒。
いきなり章三が目をぱちりと開けた。

「うわっ・・・」

がばっと章三が起きあがった拍子に、頭にぶつかりそうになり、慌てて身を引く。

「は、やま・・・驚かすなよ」
「ごめん、驚かせるつもりは・・・」

驚かせるつもりではなかったと伝えるつもりだったが、こちらを見た章三が固まった。
固まった上に、みるみる顔が真っ赤に染まっていく。

「赤池君?」
「・・・っ、ちょ、おま・・・それ隠せ!!」
「・・・え?」






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いったん、ギイは振られました(^^;)
意外に章三が、遅れてきた割にはちゃんとナイトの役割をしてまして、簡単には渡さない覚悟です。
お説教までしてますが、全て託生ちゃん可愛さゆえ。
最後のシーンは、お約束と言いますか(笑)次回きちんと描写いたします。
お待たせしてすみませんでした。
次はViolin Lessonか、境界の浸食になります。

10/7作業状況への拍手メッセージありがとうございました。
どの話も楽しみに見てくださっているというコメント、とてもありがたいです。
なんだか色々なテイストのものを書いているので、時折不安になるのですが、大変励みになります。
しのさま、ちーさま、コメントありがとうございました。
非公開メッセージも拝読しております。
(10/8 22:04 匿名の方)
こちらに来てくださっているということは、特殊設定のもの含めて全てご覧いただけているということだと思うのですが、これらを何よりも楽しみと言っていただけるなんて、本当に身に余るコメントです。体調面のお気づかいもありがとうございました。 

皆様、お優しい言葉をありがとうございます。
迷っても、こうしてお声掛け頂けると、またがんばろうって思います。