キスをしながら、両手を下に滑らせていっても、託生は唇を離さなかった。
これは、自分だけの意志ではなく、託生自身も自ら口づけをしているのだ。

だめだと言いつつも、もう託生は逃れられないところまで、来ているのだ。

下ろした手で腰のくびれを探り当て、その下の小さくまろやかな膨らみを掴んで揉みしだく。
箍が外れた両手は、大胆に動いたが、そのことに意外性は感じなかった。
ただ己の欲望に忠実に、指先が勝手に滑っていく。

「はあ・・・ん」

託生が目をつぶったまま、眉根を寄せて首を振る。
その扇情的な様子に、もう歯止めが利かないことを悟った。
腰から下をまさぐりながら、それをぐっと自分の方へ引きつけると、託生の薄い下腹部に十分に育った自身が押しつけられた。
そのままゆっくりと服の上からこすりつけると、託生の目が開いた。

「あ、赤池君の・・・」

半開きになった唇が、赤く色づいていてさらなる欲情を誘う。
ただその目は、まだ完全に章三を受け入れているわけではない。
未だ律儀で誠実で貞淑な、葉山託生だ。

気になっていないわけがない。
”あいつ”のことを。

忘れろ。
今目の前にいるのは、僕だ。

忘れてしまえ。

「そう、僕のだ」

託生に自身を押しつけたまま、快楽で上気した白く細い首筋にキスを落として、吸い上げた。

「ああっ」

託生がのけぞる。

「葉山・・・」

あまりの色香に、脳内が熱いもので満たされて、朦朧とした。
なんだ、この色気。なんだ、この誘惑。

もう、我慢ができない。
これ以上、我慢するのは、無理だ。

唇を離して、託生を抱き上げた。

「っ・・・赤池君」

己の意図を悟ったのか、抱き上げられた託生がまるで咎めるように声を発するが、そんなもので止まるような段階では、もう、なかった。
素早くベッドルームのドアを開けて、スプリングの効いた広めのベッドに託生ごと倒れ込む。

「あ、赤池君・・・だめ・・・こんな・・・」

せめてもの抵抗とばかりに、託生が力の入らない手で胸を押し返してくる。
そんなもの、むしろ誘いの裏返しでしかない。

そんな潤んだ目で、熱い吐息を吐いて、「だめ」だなんて。
お前の体はもう、僕を欲しているはずだ。
こんなに熱い体で、誤魔化せるはずもない。

「だめだ。葉山、もう止まらない。抱きたい。おまえの中に入りたい」

己の息がどんどん荒くなっていくのが分かる。
目の前に横たわる、男を誘う体と魂を前に、どうやって我慢しろと言うのか。

「だって、僕たち・・・友達なのに」

この期に及んでまだそんなことを言うのだろうか。
託生が頑固なところがあるというのは知っているが、これはそうではない。
ただ、間違いを犯しそうな自分たちを、言葉の上だけでも止めたカタチにしたいだけだ。
もう止まらないくせに。

覚悟を決めろよ。 

もう後戻りなんてできない。絶対に。
するつもりもない。ましてや・・・

させるつもりもない。

「・・・ギイ、は・・・」
「あいつの名前を呼ぶな!」

覚悟していた、小さく呟かれた”その”名を聞いた途端、激高した。
託生はギイのコトを”愛している”と言ったわけではない。だけど、万が一それ相応の言葉を聞いてしまったら、自分がどうなってしまうか分からなかった。






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前回に引き続きまして、二人のせめぎ合いです。
章三は一気に振りきれて覚悟が決まっている状態。これは章三視点なので、なかなか託生君の心情が見えづらく申し訳ないですが、託生君の方は、やはり唐突な出来事ではあるので、揺れてはおります・・・。
ただ、ギイについては、既に「分からない」「夢だったような・・・」と浸食1.で語っておりまして、そのあたりから徐々に察していただけたらと思っています。託生君視点につきましてはおいおい、どこかで書くつもりです。


書きたいギイタク 8.への拍手ありがとうございました。
しのさま、rinさま、ちーさま、コメントありがとうございました。
やるなら思い切ってやらないと中途半端になる題材なので、書くときは思い切って行こうと思います!(^ ^)