※章タクです。
※表のブログの方の「曖昧な僕の領分」の続きっぽく書いてますが、あくまで「っぽい」ということでお願いいたしますm(_ _)m
「曖昧な~」の方は「異国にて」の時間軸と同じですが、こちらの「境界の浸食」は違う軸になります。
こちらは完全に章タクになります。
※続いてます。








「これでいいかな?あとはウィスキーもあるけど」
「ああ、ワインを頼む」

託生の借りている部屋で、互いに風呂に入ってさっぱりした後、テーブルに向かい合って座り、ラベルを見せられたのは白のサントリーニ。

親友の和也のために、託生がキープしていた酒。
 
あの男は・・・ここに通っているという和也は白を好むんだろうか。
いや、単にこれを買ったときの食事が、白が合うようなモノだったのかもしれない。
二人で購入したんだろうか。

そっと差し出されたグラスに、ワインが注がれる。

慣れない様子で両手で注ぐ姿が、本当に帰ってきた夫をかいがいしく世話して労う貞淑な妻のようで、どきりとする。
Vネック型に首元が開いたTシャツから覗くピンク色に上気した肌が、余計そう想わせるのかもしれない。
こんな風に、託生は和也と普段過ごしているのだろうか。

いや、もしかしたら、託生は二人きりの時にはこんな風にあいつと・・・ギイと過ごしていたのかもしれない。
こんな風に、疲れを癒すような優しい微笑みを浮かべて、ギイを気遣いながら。

自分以外にもこんな風にしているのかと考え、なぜだかまた胸がうずいた。

「なあ、昼間も言ったけど・・・僕は葉山はもっと怒っていいと思う」

託生がはっとしたように視線を上げた。
誰に対して、なにに対して、という言葉はないものの、託生は十分分かっているはずだ。
これは自分たちにしか分からない会話。

「赤池君・・・ありがとう。そう言ってもらえるだけで僕は、十分だから」

ほら、またそんな風に微笑む。
吹っ切れたような、気にもしていないような顔をして、その実、その胸は生々しい痛みで疼いて血を流しているんじゃないのか。
どこまで耐えるつもりなんだ。
いったい、どこまでそのアンバランスな心を抱えて生きていくつもりなんだ。
あんな、中途半端な別れの記憶を捨てられずに。

「葉山。僕は本気で言ってるんだ。・・・実際、今はギイのことをどう思ってるんだ?」

虚を突かれた託生が、ワインを注ぐために自分のグラスを手にしたまま固まる。
託生にとって、それが想定外の質問だと言うことは分かっている。
ある意味、ギイの話題は自分たちにはタブーに近いものがあった。なんとなく「あいつ」という呼び名で話題に上ることはあるものの、はっきりと「ギイ」と名指しし、さらに託生がどう思っているか、など核心に迫るような質問は、それこそ無意識に避けてきた。

だが、今は無性に聞きたい。
たとえ託生がそれで傷つくのだとしても、それでも、彼が自分を置き去りにして本国へ帰ってしまったのであろう恋人のことをどう考えているのか。

「ギイのことは・・・正直言って・・・分からないんだ」

託生は手にした空のグラスを両手で握りしめてうつむいた。

「突然のことで、どうにも現実味がなくて」

声がかすれている。

「普段、考えないようにしていて、でも時々ふとよみがえってくるんだ。一緒に過ごしたときの思い出が。でもそれも全部夢だったような気がして・・・」

かすれていた声が、震え、あっ、と思ったときには無垢の木目の上に水滴が落ちた。
握りしめた手は、力が入りすぎて指が白くなるほどだった。

「葉山・・・」
「ごめん。こんなこと言うつもり無かったんだ」

託生は一つ深い呼吸をすると、涙で濡れた目で笑った。
表情のカタチとしては笑っていたが、実際には泣いている顔だった。

おもむろに涙を袖で拭うと、立ち上がり、こちらを見ずに呟いた。

「ごめん、顔を洗ってくるね。先、飲んでて」

足早にバスルームへ向かう後ろ姿を見送る。
声をかけたいのに、なんて言っていいのか分からない。
その前に、自分がひどくショックを受けていることに気が付いた。

「なんだ、これ」

胸が冷える気がする。

ギイを想って泣く託生。

自分が投げかけた質問にも関わらず、どこかで、託生は泣くのではなくギイへの恨みを一通り吐いて、そして二人でヤケ酒を飲むような気がしていた。
なのに、託生は恨みの一言も発することなく、儚く震えて涙を一粒だけこぼした。

それが、こんなにも、苛立つ。

それはとりもなおさず、託生の心がまだギイに囚われていると言うことを示している。
そのことに対して、怒りにも似た感情が腹の中にくすぶっている。

「葉山・・・」

こんなものを抱えたまま一人でじっと託生を待っていることに耐えかねて、バスルームへ行くとタオルに顔を埋めている託生を見つけた。
背後に立つと、ハッとして振り向く。

「ごめん、赤池君、ぼーっとしてた。お酒、飲もっか」

笑っているが、やはり目が赤い。
こんな無理して、笑って・・・

”あいつ”は、こんな葉山の姿を見たら、己の罪深さに気が付くだろうか・・・?
自分が傷つけてしまった者の、こんなにも美しくて痛々しい姿を見たら・・・?

さっきから感じている胸のうずきが止まらない。
何かが自分の背中をぐいぐい押しているような気がする。

「赤池君?」

反応もなく、じっと託生を見つめている自分をいぶかしげに託生がのぞき込んできた。
涙の名残に潤んだ瞳と、視線がカチリと、合う。





それが、スイッチだった。





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夏休み前に表の方で予告をさせていただいておりました、ガチ・章タクのお話です。
すみません、続いてしまいます~
託生君のことを心配して、大学に入ってからは以前にもまして託生君に接触していた章三が、和也という親友の存在を知り、傷ついた託生の心の内と涙を知り・・・というところからになります。
このあたりから、「異国にて」の時間軸とは違う世界に入るとお考えいただければ幸いです。

あの・・・わりとチャレンジしたお話なので、どこかしら、もし気に入られたりしたら、拍手、コメントなどのご反応を頂けるとありがたいです。
続きを書こうにも、皆様のお気持ち的にどうなんだろうって、実は結構気になってます(^^ゞ  

さて~、次回こそは「Violin Lesson」の続編UP目指します~
お待たせしててすみません!

8月24日の記事への拍手ありがとうございました。
しのさま、コメントありがとうございました。
それっぽいお話がUPされてたら、ああ、とうとうやっちまったんだなって思ってもらえると・・・嬉しいです(苦笑)